【スタッフ教育コラム】サドベリーの夢中について
当時、スクールに庭があったころ、その庭で「穴を掘りたい」という、入学ステップ中の12歳の子がいました。
もともと穴を掘るのが好きとのことで (色々な子がいておもしろいですね)、
以前も穴を掘っていい公園で、よく掘っていたとのこと。
「スクールの庭なら大丈夫だよ」
ということを伝えたら、さっそく掘り始めました。
そうしたら、大人でも持ち上げられないほどの、すっごく大きな石が出てきたのです!
これには誰しもがびっくり!
次にその生徒は「これを削りたい」ということで、削り始めました。
それから体験期間中、毎日石を削っていました。
もし子どもが「石を削りたい」と言ったら、どうしますか?
「そんな無駄なことをしていないで他のことをしなさい」と言いますか?
「勉強して、時間が余ったらいいよ」と言いますか?
わたしたちは「ずっと削ってていいよ」と言ってあげたい派です。
石を削ることでどんないいことがあるのか。それはわかりません。
しかし、例えば「自分の興味のあることをしていいんだ」という自分への許可は出やすくなるでしょう(これができない大人はたくさんいて、私もいまだに出てきます)。
石を削ることで、自分は無になれる感覚が好きなのだと気づくかもしれません。
石や鉱物に触っていると落ち着く自分がいると気づく、そのプロセスの途中なのかも。
完成のイメージはだいたいあるとのことなので、自分の決めたゴールに向かってコツコツ進める経験をしているともいえます。
将来は、考古学者になって世界中を掘っているかも。サグラダファミリアの彫刻をしているかも。石を削ることからジュエリーの職人やデザイナーになるかも。石つながりで宝石を販売しているかも。
子ども時代に何かに夢中になった生徒は、卒業後その仕事に就いていることも多いです。
カフェオーナー、ミュージシャン、スポーツインストラクター、3Dアニメーターなどなど。
これからも、様々な生徒がそれぞれの「自分の道」を見つけていくでしょう(そのためにも続けなくてはいけません)。
『片付けの魔法』で有名な近藤麻理恵さんも、子どもの頃から夢中で片付けや整理整頓をするお子さんだったそうですね。
人生、何がどうつながるか分かりません。
私たちは、夢中が仕事にならなくても、その時に興味のある事をたくさんできることは、その人にとって財産の1つになると考えています。
それは夢中になった経験をたくさん積むことができたから。最近はそれをフロー体験と呼びますね。
また夢中になっている人のもとには、協力してくれる人や興味を持つ人など、人が集まってくるものです。
思えば私も、20代前半でサドベリー教育に夢中になり、何もないところからたくさんの方のご協力と応援によって、29歳で本校を共同設立し、続けてくることができました。
見える形で、また見えない形で応援していただいた方々に、本当に感謝しています。
私たちは、小さな夢中をもっと大切にしなければいけません。それがいつか大きな夢中になるための大事なステップでもあるからです。
そのためには、周りの人(だいたい大人)が誰か(たいてい子ども)に、
「それは無駄だ」とか「それよりもこっちやってほしい」とか思わないこと。
そんなことより、その周りの人自身が何かに夢中になる方がよほど大切です。
スタッフも人生で様々な夢中を経験しています。
私は2日間徹夜で大好きなゲームをしたことがありますし(目が痛くなったけど楽しかった)、陸上部がないけど陸上競技がしたくて個人で練習して大会に出ていたり。上記の通りサドベリーについては今も夢中です。
またあるスタッフは、小さな頃虫が好きで虫かごいっぱいに虫を捕まえてきたり、書道が好きで夢中になっていたら10代前半で師範資格を取得していたりします。
そのどれもが大切な自分自身です。
スタッフとして自身もこういう経験があるからこそ、生徒の夢中をジャマせず(夢中になるのは数学は良くてゲームはダメとか)じっくり見守ることができるのです。
さて、その石を削り始めた子はどうなったか。
おやおや、最初はひとりで黙々と削っていたのに、自然と他の生徒が集まってきました。
やはり、夢中は人を引き寄せますね!
TSSは自分で興味や必要なことを探し、試し、方向転換もでき、そして追求し続けられる学校です。
夢中になりたい生徒は夢中になる経験を、TSSでたくさんしてほしいと思います。
そして実はこれも大切なのですが、夢中になりたくない生徒の、夢中にならない権利も大切にしていきたいと思います。
スタッフ:杉山