サドベリー教育では、卒業のタイミングも自分で決めます。

多くのサドベリースクールでは、自らがスクールでの学びを終えたと判断したときに卒業論文を書き、生徒やスタッフ(時には保護者も)に発表してそのスクールの卒業生として認められたとき、正式に卒業となります。

サドベリー・バレー・スクール卒業生のBaz・Harrigan(バズ・ハリガン)さんは、10才で入学し、9年間の在籍の後、卒業しました。そして、卒業後に彼が日本を訪れた際、東京サドベリースクールにもお招きし、インタビューを行いました。

自分らしさへの探求を経て卒業へ

アメリカのサドベリー・バレー・スクールでは、卒業する時期を自分で決めることが出来ますね。9年間通って、どうして卒業を決めたのですか?

バズさんの回答
セルフイメージが確立したからです。つまり、自分はどういう人でいたいか、どういう事をしたいのか、そしてしたくないのかが確立したからです。

どのように確立していったのですか?

バズさんの回答
世界中にある色々な出来事に対して、自分がどう反応するのかをよく観察しました。
また、他の人がどう判断したかということを考えました。そして、どういう事が自分にとって一番良い反応だったのかということを考えました。それを日常的にしていくことで、自分がどういう人間かを少しずつ作り上げました。

等身大の自分を理解することが自己評価になる

サドベリー教育の中で自己評価はどのように培われますか?

バズさんの回答
自分が何かをやり遂げ、それが良いものだ!と思えたときです。
自己評価は、自分を大きく見せるとか、誰かに良い評価をもらうと言うより、自分をどれだけ理解できるかと言うこと。自分に出来ることと出来ないことを把握することが、自分に対して満足感を感じることになると思います。

成績表がありませんが、自分の位置を確認したりするものが必要ではないのですか?

バズさんの回答
人がつける成績を通して自己評価を得るという考えは必要ないと思います。
サドベリーモデルの教育では、自分のやりたいことが出来ます。自分に対する評価は、外からではなく、自分の中から感じること、作り上げられるものです。

サドベリー教育は、テストも成績表もありません。あらゆる活動は、そのコミュニティーの他の人々の権利を侵害しない限り、その人にとって今必要な学びをしているとされ、その活動が尊重されます。

そのため、「良い・悪い」という「評価」を誰からもされることのない環境の中、生徒たちは自然と自分で自分自身を見つめることを体験し学んでいきます。

全て自由ではない社会にどう適応するか

サドベリー・バレー・スクールでは自主性を重んじて、自由に過ごせますが、一般の社会で全部自由にならない事があり、嫌なこともしないといけない場面もありますよね。
そのような時、サドベリースクールを卒業した生徒達はどのように対応するのですか?

バズさんの回答
卒業生は本当に色々な事をしています。職業も様々です。生きていくためには時には嫌なこともしなければいけなくて、それは、小さな子どもの頃からやらないと身につかないと多くの人が思っているようですが、僕自身の観察からの感想では、一般的な学校に通っている子どもは、勉強の回避術を身につけていると思います。

それに反して、サドベリーの卒業生は、仕事をどうやったらこなせるのか?完結できるのか?という能力に長けているように思えます。ですから、小さな頃から嫌なこともする訓練が必要なわけではないと思います。

以上、人に対する深い洞察と観察力が感じられたバズ・ハリガンさん。

これらはご自身の力とご家庭の教育と共に、9年間の学校生活で誰に評価されることなく自分らしさを探求し、自己を確立してきたからこそなのではないかと思います。

では、サドベリー・バレー・スクールを卒業した後の進路について、生徒たちはどのようにとらえているのでしょうか。
創設者の一人であるDaniel Greenberg(以下ダニエル・グリーンバーグ)氏の著『世界一素敵な学校』には、このように書かれています。

「卒業生の特徴として、人を見下す傲慢さが見られないということがあります。サドベリースクールでは異年齢がミックスされており、スタッフも生徒も対等に学校で過ごします。進路についても対等です。例えば大学進学が一番で、次が専門的な訓練を受ける生徒、就職組はあまり良くないという区別はありません。」

“自分らしく生きる”ということを追求できる環境で過ごした生徒たちは、卒業後の進路についても自分らしい選択を行い、その全てに同等の価値があると捉えているようです。

では、卒業後に働くことを選択した生徒たちについて見ていきましょう。