ここで、卒業生たちがサドベリーでの生活でどのような力を培ってきたのかを見ていきましょう。

ある卒業生は、学校生活についてこのように語っています。

 学校生活はいつも忙しかったです。何かを選択する際はほとんどの場合、難しい事を選んで行っていました。すべては“一歩前へ進むこと”でした。停滞することは無く、全てが挑戦することでした。

このようにサドベリー・バレー・スクールでは、ただ好きなことをするだけでなく、自ら進んで難しい事を選び、チャレンジする生徒が少なくありません。

それは、本人がそのことに興味があるからもっとやってみようとするためであり、好きなこと・興味のあることを前提に行っていると、周りから見ていて難しい事にチャレンジしているように見えたり、とても努力をしているように見える事も、本人は活動に没頭した集中状態(ローと呼ばれる状態)にあるので、自然に行っていることが多々あるためです。

誰にでも、興味のあることをしていたら、あっという間に時間が過ぎていたという経験はあるのではないでしょうか。

実際に「えい!」と勇気を出してチャレンジをしていたりもするのですが、周りからはより高いレベルのことや、より難しい事に努力しているように見えるのです。本人はやりたいからやっているのですが。

(また余談ですが、より興味の度合いが高いと、勇気さえいらなくなります。年少の子どもが、「あのブランコ乗りたいな~でもなァ。。」などと考えず一直線にブランコに走り出すように。)

では、人生の困難にぶつかったとき、卒業生たちはどのように対処しているのでしょうか?

このグラフで2番目と3番目に多い回答の、 「信頼すること」「自分に自信をもつこと」はサドベリー教育で大切にしていることでもあります。

また、このテーマに対する卒業生のコメントもご紹介しましょう。

「すぐにあきらめてしまうのではなく、多くの決意をしてきました。」

「今現在が心地よい状況ではなくても、未来へつながっているのだと信頼して過ごしています。自分が正しいと思えることに対して、信じることと、行動を起こすこと、リスクを冒すことを大切にしています。」

また、困難にぶつかったときの対処の1番目として「粘り強さ」が最も多かったというのは、毎日自由なサドベリー教育からはイメージがしづらいかもしれません。興味のあることや好きなことばかりしていては、めんどくさいことや、やるべきことをやらず、すぐにあきらめるようになるのではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。

東京サドベリースクールは、一般的な学校のように掃除の時間があるのですが、この掃除時間も内容も、そもそも掃除をするのかということも、生徒とスタッフの話し合いで決められました。
もちろん掃除が好きな生徒ばかりではありません。大人と同じです。しかし、自分達が参加し、決定権のある話し合いで決まった事なので、全員が掃除の約束を守っています。

どうしても変更したい生徒や掃除そのものをやりたくない生徒は、自ら変更したいと話し合いの場で発言し、変えられる権利があるので、皆の約束に“従わない”という手段ではなく、“自分にとっても皆にとっても望ましい形に変える”という手段が取れるのです。

きちんとした手順で変更されたのであれば、それが今後の約束となります。この手続きはめんどくさいことではありますが、本当にやりたいのであればやりとげます。まさに「粘り強く」。これが「興味のあることであれば、めんどくさいこともするし、あきらめずにやる」ということです。

では、興味のないことや、やる必要があるがやりたくないことはどうするか。好きなことをする中には、めんどくさいこともあります。それを「えい!」とやってしまうというのもひとつの手ですし、また、そのことに興味がある人や専門家にやってもらうという考え方もできます。

たとえば、日本の学校では、生徒が学校の掃除をしますが、海外の学校では外部の業者が掃除をしていたりします。また、掃除が好きな人(生徒や先生!)に任せるということもできるかもしれません。自分が苦手な事も、いい意味でやらなくて良いようにクリエイティブに考えることができたら、それはそれで素晴らしいことだという考えです。

少しそれましたが、つまり人は、好きなことやそのことに関心があるからこそ、粘り強く続けることができるのです。
人生は時に何度も壁にぶつかるものです。好きでもなく、関心がないことだったら、何度も壁にぶつかったときにそれらを受け止め、乗り越え続けることはできないでしょう。

自分が好きなことや、自分の人生を自分がしたいように生きるためだからこそ、粘り強く対処していけるのです。
何かに卓越するには10000時間の練習や訓練、経験が必要という調査結果(『Outlier』Malcolm Gladwell著)がありますが、作曲家のモーツァルトや野球のイチロー選手のように、ひとつの分野で結果を出すにはそのことへの興味と訓練が不可欠です。

やりたいことを続けるための気持ち、そして困難にぶつかったときの粘り強さは、本当にそれをやりたい、心ひかれるからこそ生まれると考えています。

そのためサドベリースクールでは、「自分が本当にそれをやりたいのか」を周りから問われ続けますし、自分でも直面し続けます。