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杉山まさる

東京サドベリースクールは子どもが個人の活動の自由、主権者としての民主主義、そしてコミュニティーの一員として平和な社会をつくっていくチャレンジができます。子どもに何も与えないと言われるサドベリースクールは、注入教育としての教科の教授をしないだけで、開発教育として子どもに人間としての自由・権利・生き方を自ら考え経験できる環境を与えているのです。

ここまで子どもを信頼し与えられているのは、サドベリースクールをおいて他にありません

そして15年といえど、開校当初からサドベリースクールとして活動している団体として、東京サドベリースクールは日本において歴史のあるサドベリースクールの1つです。

東京サドベリースクールの教育活動

本校は、「グローバルリーダーを育てる」であったり、大人から「様々な刺激を与える」といった学校ではありません。また「有名大学への進学実績」についてこだわる学校でもありません。

それらは、生徒自身がそのようになりたければ、なればいいと考えています。

ただおもしろいもので、興味を追求していたら自然とその分野でグローバルに活躍したり、自然と人生のテーマに行き着いたり、自然と大学や企業に手段として入ったりします。

そして、大人や他者に幸せにしてもらうのではなく、自ら幸せをつくっていけるようになっていたりもします。

では何を大事にしている教育や学校かというと、「生徒自身が自分で自分を育てられる」ことと、「自分たちの社会に対して責任を持つこと」です。

「子ども(もっといえば一人の人)として自分で幸せをつくっていけること」や、「自分にとって必要かを自ら試行錯誤できる」教育です。

机上の学習ではなく「日々の経験から学ぶことができる」学校です。

私はこれを20代で経験しました。正直6歳からできる生徒たちがうらやましいです。

実際に何をしているか。個人の活動であればその対象が数学、IT、ゲーム、映像、本、歌、料理、会話、スポーツ、手芸、のんびりすることであったりします。

社会的な活動であれば、自分たちのコミュニティーである学校に主権者として1票の権利と責任を持ち、自分も他人も、今も未来も大切にする決断と実行を経験しています。

学校規模的にはマイクロスクールといわれる小規模な学校ですので、まだ社会人の同窓生は多くありませんが、在籍中、真に自分に向き合った同窓生たちは、社会に出たあとも試行錯誤しながらも、自身の興味と強みにもとづいて生き、それらを活かし、他者と分かち合い貢献する傾向があります。

この学校の成果としての、わかりやすい指標はありません。大人が安心する進学率や資格取得といった指標ではなく、生徒自身が自立した人間として生きていく土台を自らつくっているかどうかを大切にしています。

自分にきちんと向き合い、自らを育て、他責せず思いやりを持ち、自他の自由を尊重し、どのように生きていくか、どのような人間で在るのかを大切にしているためです。

また、まだ同窓生の多くが20代前半でかつ少数ですので統計などは取れていませんが、本校を巣立った後の同窓生について個別の事例としては以下のようになります。

・歌が大好きでスクールで自ら毎年コンサートを開催していた生徒は、その売上でもっとお客さんに喜んでもらおうと次のコンサートに再投資していました。今は、昨年CDを出したりと国内外で歌手として頑張っています。

・料理が好きでずっと作っていた生徒は、他の生徒やスタッフによく作った料理やお菓子を売っていました。当時「大好きな料理を食べてもらえるだけでも嬉しいのにお金までもらえるなんて」と言っていました。今では自分のお店をつくり、子育てしながら経営しています。

・スポーツが好きで人と関わることが大好きだった生徒は、現在スポーツクラブのインストラクターとして働いています。彼は18歳で働きだし、今でもそのクラブで楽しく働いています。

・在籍中、毎日毎年ずっとパソコンをしていた生徒は、本校でコンピュータが大好きになり、今では3Dアニメーションの会社で働いています。わざわざ就職の連絡をくれ、昨年のクラウドファンディングでも社会人1年目なのに支援してくれました。

・数学が好きでよく自ら数学の問題をインターネットから探して解いていた生徒は、入学前に以前の学校が合わず体調を崩してしまっていたそうですが、本校ではとても元気に毎日活動していました。

ルービックキューブが大好きでよく年下の生徒に教えてあげていた優しい生徒で、家庭の事情でヨーロッパに帰国されましたが、今では大好きな数学の大会に出場して楽しんでいると嬉しい連絡をいただきました。

・進学という面では、一度社会で働くなどしたあと、「自分はこれを学びたい」と考えその手段の1つとして大学や専門学校に入学したり、社会人受験の勉強を頑張っている同窓生もいます。進路は人権や、リベラルアーツ、アートやITなど様々です。

もちろん、私たちの未熟さで自らに向き合うことや学びが深められなかった生徒もいます。

その際には、スタッフもきちんと自分自身を見つめ、次に活かせるよう努めてまいりました。

そのことを、サドベリーバレースクールの設立メンバー兼スタッフの方にお話したら「私たちは50年間スタッフをしているけど、今も少しずつ学んでいるのよ」とおっしゃっていました。

これからも、生徒と共に学ぶスタッフでありたいと思っています。

東京サドベリースクールが教育活動以外でしてきたこと

私たちはコロナ以前に、日本で唯一毎年ボストンのサドベリーバレースクール(世界初のサドベリースクール)を訪問し、教育理念の原点回帰、最新の知見、そしてつながりをつくってまいりました。

一度どうしても日程の都合がつかず、アメリカの新年度にあたる9月に訪問させていただきお礼を伝えたところ「あなたたちだから受け入れたのよ」と言ってくださいました。このように日本とアメリカのサドベリースクールの関係づくりや、おそらく日本で初めて直接ヨーロッパのサドベリーにも訪問し、そこで得たものを様々な機会で共有してまいりました。

また、わたくし杉山は、2016年に法律となった教育機会確保法(略称)の共同発起人としても活動していました。最終的には「多様な」という文言がなくなり不登校向けの法律となりましたが、発起当初は多様な教育を子ども自身が自由に選べる社会制度を目指して活動しておりました。

この21世紀ですら、子どもが自分を育てる教育を選べるようになっていません。大人が自分の仕事を選べなかった数百年前と同じです。次の世代では、子どもが当たり前に自分の教育を選べる社会になっているように、今後も渉外活動も進めてまいりたいと思います。

多様な教育があること、サドベリー教育について広めるためにも、毎年のように100~200名規模の講演会や、毎月の一般見学会を行うなど、教育の選択肢を広めてまいりました。

このように、

・子どもが実際に通う現場として東京サドベリースクールの設立と存続

・世界のサドベリースクールとのつながりと共有

・今と未来の子ども達が制度として自由に教育を選べるようになるための社会制度の変革

・サドベリースクールや様々な教育があることを広め子どもが教育を選んでいけるための啓蒙活動

など、この15年だけでも様々行ってまいりました。

これだけの想いと行動をしてきたのが本校です。

さらには、最も子ども人口の多い東京にサドベリースクールという選択肢がある意義を感じ、15年間、都内で続けてまいりました。

ただ正直、東京で生徒が心地よく過ごせる環境をつくることは大変です。

その1つが家賃です。子どもの毎日過ごす物理的な環境はとても影響力があるものです。施設に関して、生徒の感性や健康を大切にすることと、教育機関として運営することを優先してまいりました。

開校当初、生徒と一緒に楽しむ杉山。一貫して子どもの教育・健康・笑顔の為の環境づくりに力を尽くしてまいりました

また、多くの新しい市民立の学校を見てきて、先生やスタッフの給与が非常に低く、保険には入れていない所も多くありました。本校のスタッフも、生徒達のためにも、スタッフ給与はきちんとした額でなくてはなりませんが、生徒が通うスクールを優先し、現在は現実的に子育てできるほどの給与額ではないのです。

時々「なぜ学費が高額なのか?」と質問をいただきますが、実は子どもの選択肢のために新しい教育をやっていくには、今の学費でも足りていません。

教育基本法第一条に定める設備と教育をしている教育機関のみを日本は“学校”としており、公立学校はほぼ全額、私立学校は3割程税金が投入されています。サドベリースクールのような、上記の法律ではない教育をしていると0円です。そのため、インターナショナルスクールは年間200万円といった学費設定なのです。

なお東京都の公立小学生1名で97万円、中学生で115万円の税金が使われています。これは公立は様々な税金等が必要ないため、この額で済んでいるともいえます。

家庭負担額の違いからわかりづらくなっていますが、本来それだけ子どもの教育機関には費用がかかるものなのです。

そして本校の生徒はサドベリー教育が法律的に認められていないため、毎日本校に生徒が通っていても学校籍が地元の公立小中学校にあることが多いのですが、その小中学校に1日も行かなくとも上記の税金がその小中学校に投入されていて、本校にはありません。

生徒がいない分の約110万円は何に使われているのか。省庁に問い合わせましたが、「全体として計算しているので」との回答でした。省庁の方もそう答えるしかないと思います。

この制度が整備されれば、かなりの数の家族が、「本当に子どもが行きたい教育の学校」に行けるようになります。教育の規制がないという大前提ですが、そうすればもっと家計負担の少ない額でサドベリー含め通うこともできるようになるでしょう。

今と次の子どもたちのために

でも、そもそもなぜ今そのようになっていないのか。

それは時代が変わったからです。

これまでの1つの一斉教育で経済発展してきたので、そこにはきちんと感謝していく。そのうえで、大事なことはこれから私たちがどうするかだと考えています。

この最も大切なこととして、生き方や働き方が多様となった現代には、様々な教育があり、様々な個性を育てられる教育現場と制度が必要なこと。そしてそれを知っていくことが求められています。

本校が子どもの選択肢としてこれからも続いていくことで、最も大切な「子どもが通う」ことができます

そして、これからも沢山の方に東京サドベリースクールや様々な教育を知っていただき、制度として多様な教育を子どもが選べるようにしていくこと。

教育による国民統制や大人の不安を手放し、子どもの人間性を育て、個性や強みを活かせれば、社会や経済にとっても良いことであると考えています。

この「現場」「啓蒙」「制度」の3つが大事。

そのためには何よりも子どもが選ぶための「現場」がなければいけません。

1つの学校だけの話しではなく、より良い社会のためにもお力添え頂ければ幸いです。

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